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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1421号 判決 1962年12月12日

控訴人(原告) 川口スギ 外二名

被控訴人(被告) 青梅税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は、昭和三四年(行)第一二〇号事件につき、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人多摩機械株式会社に対する戦時補償特別税の滞納処分として、控訴人川口スギに対し原判決添付別紙第一目録の(一)の物件につき昭和二六年一一月三〇日に、同目録の(二)及び(三)の物件につき昭和二七年七月三日にそれぞれなした各差押が無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。なお予備的請求として、被控訴人が控訴人川口スギに対してなした前記各差押処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、昭和三五年(行)第一一号事件につき、「原判決を取消す。控訴人多摩機械株式会社及び控訴人川口弥重郎は被控訴人が右控訴会社に対する戦時補償特別税の滞納処分として、控訴会社に対し原判決添付別紙第二目録の物件につき昭和三四年一〇月八日なした差押処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述竝びに証拠の提出、採用認否は、控訴人等代理人において、一、原判決中一五六丁裏四行目中「全額」とあるを「小切手額から一万円を控訴した額」と訂正し二、同様一五三丁表六行目の「である。」を「であること、」に改め、それにつづけて「法律上不遡及の原則上当然であろう。また所得税の申告をしない者に対しては、無申告加算税を課しているにかかわらず、戦補法はこれを課していないのは、前述のように国が債務を踏み倒す法であつて、真の税法でないからである。」を附加し、三、同様一五七丁表一一行目中、「なお」の上に「控訴人川口スギは控訴会社の戦補税納付の義務のない者であるから、被控訴人の差押によつて民法上の権利を喪失する理がないので、たとえ、売却決行五日前に本件差押不動産につき所有権を主張し被控訴人に対し取戻を請求しなくとも、また再調査若くは審査の請求をしなくともよいのであるが、右控訴人は売却決行の日たる昭和三一年一二月七日から五日以上前である同年一一月二二日被控訴人に対し再調査を請求したものである。」との点を附加し、四、同様一五九丁裏六行目の「控訴会社が戦補税を支払わないで解散したので」を「控訴会社は昭和二〇年九月一五日解散し、その後一年二月余を経て戦補税法が制定施行されたので、」に訂正する、と述べ、被控訴人指定代理人において、右訂正に異議はない。なお右主張の四の事実は認める、と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

理由

当裁判所のなす判断もつぎの点を附演するほかは原判決理由において説示しているところと同一の理由(但し、原判決中記録一七五丁表三行目「債権相当額の戦補税」を、「右債権相当額の課税価格から一万円を控除した額の戦補税」とまた同一七七丁表四行目「旧徴収法第二九条」を「旧徴収法施行規則第二九条」と各訂正する)により控訴人川口スギの第一次の請求を理由がないものとして棄却し、予備的請求を不適法として却下し、また、その余の控訴人等の請求をいずれも理由がないものとして棄却すべきものと認めたからここに右理由の説示を引用する。

控訴人川口スギは控訴会社の戦補税を納付する義務がないのに拘らず、被控訴人において同会社の戦補税の課税処分として第三者たる同控訴人所有の本件不動産を差押えたことを理由として、本件差押処分は無効であり、仮に無効でないとしても取消を求めるものである、と主張するものの如くであるが、被控訴人が同控訴人の右所有財産を差押えたのは、同人が旧国税徴収法第四条の四による控訴会社の主たる国税(戦補税)に対する第二次納税義務者即ち、控訴会社の残余財産の分配又は引渡を受けた者として法律上当然本来の納税義務者と連帯して納税義務を負う者としてなしたもので、本来の納税義務者たる控訴会社の滞納処分として第三者たる同控訴人所有財産に対し差押をなしたものでないことは、被控訴人主張自体から明白であるのみでなく、甲第二号証(再調査の申立と題する書面)によるも同控訴人自ら被控訴人において同控訴人に対し控訴会社と連帯納税の義務あるものとしてその所有不動産を差押えたことが不法であるとして差押の解除を求めていることが認められるから、同控訴人が被控訴人に対し旧徴収法第十四条に基き本件不動産の取戻を求めたこともなく、また同法に基く請求と解する余地もないこと原判決認定のとおりであり、従つて、控訴人の右主張を前提として被控訴人の本件差押が無効であるとなすを得ないし、また本件訴が訴願前置の要件を必要としない適法のものであると謂うを得ない。

以上のとおりであるから控訴人等の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法第三八四条第八九条第九三条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木忠一 加藤隆司 宮崎富哉)

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